自分はただ絆創膏をもらいに来ただけだ。ただ、それだけなのに。


 刹那は、潜入先の学校の保健室でにこやかに自分で手を振る(変装のつもりなのだろうか)なぜか眼鏡を装着した碧眼の男の顔面に、なぜか刹那の足元に転がってきたオレンジ色のAIを力いっぱい投げつけた。


 「いでっ!」


 「イタイ、イタイ」


 相棒と顔面衝突を余儀なくされたロックオンは、堪らず後ろに倒れこんだ。そのまま頭を打って気絶するなり何なりしてしまえば良かったのに。


 「何しに来た?」


 「刹那〜 ひさしぶりの再開だって言うのに酷いぜ〜」


 「ヒサシブリ、ヒサシブリ」


 刹那は黙ってロックオンの傍らまで移動すると、ロックオンの顔のすぐ隣の床をだんっ! と思いっきり踏んだ。いつもだったら癒しを与えるはずの、征服のスカートからすらりと伸びた美脚が今や凶器にしか見えない。


 「何しに来た?」


 逆光と相俟ってか、下から見上げた刹那の顔は普段の何倍も怖い。


 「ミス・スメラギに頼まれて、刹那のお手伝いに」


 「帰れ」


 多少は復活したのか、笑顔でそう答えたロックオンを刹那は瞬時に一刀両断する。


 「えぇ〜 わざわざ保険医にまでなったんだぜ。それに教師側に味方が居たほうがミッションも成功しやすいだろ」


 二度とこの保健室には行くものか。刹那は心の中で固く誓った。


 納得いかないと言うかかなり嫌なのだが、ミッションの助けになるというのなら、と刹那は渋々了解した。とたん、ロックオンは明るくなる。


 「やーわざわざ教師になってまで来て良かった。刹那のセーラー服姿が見れるなんて」


 感極まっているロックオンに刹那は冷たい視線を送る。さっさと目的を果たして教室に帰りたい。


 「ロックオン、絆創膏もらうぞ」


 「何、お前怪我してんの?」


 心配そうなロックオンに刹那は左腕を見せる。そこには小さいながらも傷が出来ていて血がにじんでいた。


 「グラウンドで転んだ」


 「あーあー、血ぃ出てんじゃねぇか。待ってろ、今持ってきてやるから」


 空いているイスに座るよう促され、刹那は大人しくちょこんと座った。傷は出血しているものの浅く、数日で治るだろう。


 「ほら、刹那。傷見せてみろ」


 素直に腕を見せると、ロックオンは「あんがい浅いな。これじゃ絆創膏だけで十分か」と安心したような顔をした。


 せめて消毒くらいはしてもらいたいな。そう思っていると、ふいにロックオンが刹那の腕に顔を近づけた。


 そして、刹那が止める暇さえ与えず、腕の傷に唇を寄せて傷口をベロリと舐め上げた。


 「っ!?」


 「消毒完了」


 ニヤリと笑ったロックオンの顔面に、刹那の拳がめり込んだ。