刹那はどこぞのおかっぱ眼鏡のような怒りっぽい(というかキレやすい)性格ではない。といっても、穏やかと言うわけでもない。ただ、感情を表に出さないだけ。


 だから、今この瞬間、正確にいえば、久しぶりの休日でマイスター全員で出かけていたところ突然入れ替わったハレルヤによって拉致され気付けばどこだからわからない場所の誰のだからわからない部屋に連れてかれ普段なら滅多に着ないような可愛らしい(その分、露出が多い)服を着せられた、なんて状況下にあっても、かすかに眉を寄せる程度しかしていなかった。


 「・・・・ハレルヤ」


 刹那は、ソファーに大人しく座っている自分の腰をつかんで抱き込んでいる男を呼んだ。


 「・・・・リジェネ」


 刹那は、自分にこんな服を着せた挙句にひざまづいて足の指にマニキュアを塗っている男を呼んだ。


 あともう1人、ハレルヤと協力して刹那をここまで連れてきた男がいるのだが、彼はさっさと部屋の奥へと消えてしまった。


 「お、刹那可愛くなったじゃん」


 「・・・・ライル」


 部屋の奥から出てきた男の手には、甘い香りを放つ飲み物(香りから推測するにココアだろう)とプチケーキを乗せたトレーが。


 ちなみに、今の刹那の格好をは可愛いと言うよりはやけに露出が多くて艶かしい。黒いキャミソールの胸元には同色のレースがたっぷりついていて、こんなところを飾るのならもう少し腕とか胸元の布の面積を増やして欲しい。太ももが露出したショートパンツも同じように丈が短い。というか、なぜこの服はこんなにも胸元が空いているのだろう? 明らかにコレは室内着というよりはむしろ下着姿に近い。往来で着ていたら間違いなく補導される。


 「・・・・お前ら、何がしたいんだ?」


 刹那は心の底からその問いに対する答えを欲した。ここまでやっといて、理由が単なる気まぐれか何かだたらたぶんキレる。


 「「「刹那と触れ合いたかったから」」」


 こいつら、殴ってもいいだろうか? というか、己の精神の安定のために、ぜひとも殴っておきたい。


 「せ、刹那そんな怖い顔するなよー。あ、ケーキでも食べるか?」


 さすがに怒りが顔に出たのか、若干引きつった笑顔でライルがケーキを勧めてくる。どこぞの有名店の代物らしいそれは、程よい甘さがとても美味しいと女性に人気だという。


 「ライル、重い」


 ちゃっかり刹那の頭の上に顎を乗せるライル。刹那のくせっ毛を指で弄びながらたっぷりと堪能する。


 「んー刹那いいにおいがするな」


 「顔を寄せるな」


 「てめ、ライル邪魔だ」


 「貴様ら、場所をあけろ」


 最初は無視してケーキを食べていた刹那だが、至近距離でぎゃーぎゃー騒がれててはたまらない。黙らせようと口を開いたその時。


 「「刹那、無事かっ!?」」


 あぁ、またなんかうるさいのが飛び込んできた。


 「ぎゃーライルお前刹那から離れろ!」


 「貴様もだリジェネ! というか、どこを触っているのだ貴様ぁぁぁ!」


 「おい、なぜ奴らにここがばれたんだ? お前たち、ちゃんと引き離してきたんだろうな?」


 「ちゃんとやったって。おかしいなー」


 「こんなこともあろうかと、刹那には常に発信機を付けさせている」


 初耳だそんなこと。プライバシーの侵害もいいところだ。


 「いつもお前らばっか刹那と一緒にいるんだからさ。今日ぐらい俺たちに渡せよ、ニール」


 「ふざけんなー! てか、お前ら刹那になんて格好させてんだ」


 「いい趣味してるだろ。あ、見立てやメイクは全部リジェネ担当な」


 「上出来だろう? 混乱していたおかげか、刹那の抵抗も少なかったからな」


 「貴様、刹那になんてことを・・・万死に値する!」


 騒々しさが増したやり取りに、刹那はため息をつくと耳に両手を当てて、この喧騒から逃避する構えを取ったのだった。