いつだって惚れる側より惚れられる側だった。


 だからきっと、これが俗に言う初恋なのだろう。







 「なぁ、刹那は知ってるか? 初恋は叶わないって噂」


 その問いを目の前の女性にしたのに意味なんてない。なんとなく、この手の話が一番似合わなさそうな人物にしてみたのだ。案の定、彼女は大きな赤褐色の瞳を丸くして小首をかしげた。


 「あ、やっぱ知らない? 昔はよくそれでからかったりしてたんだけど。今じゃ廃れてんのかな」


 「俺がいたところは、そんな噂が出るほどのんきな場所ではなかった。だいたいそれ、根拠はあるのか?」


 くだらない、と言わんばかりに眉根を寄せて刹那はため息をついた。ライルも苦笑して昔の記憶などを掘り返してみたが、そういえばけっこう盛んに囁かれていた噂なくせに、出所なんて全く分からない。


 「あー・・・・それはアレだろ。やっぱ初めての恋ってのはどうやったらいいか分かんなくて、それでヘマして終わっちまう、みたいな」


 「なんだそれは。お前の勝手な解釈なんじゃないか」


 「仕方ないだろ、分かんないんだから」


 そういえば、自分が女性から告白される際はよほど好みのタイプじゃない限り付き合っていたなぁ、とライルは己の女性歴を思い出した。その中にはライルが初恋の相手だという女性もいたし、やはり噂はただの噂なのだろう。


 「なぁ、刹那の初恋って叶った?」


 興味深々で尋ねると、お前には関係ないと拳が飛んできた。


 「人の恋路をなんだかんだと言う前に、お前はどうなんだ。そろそろいい歳だろうが」


 「まだ29だっつーの! 刹那と同じ20代だ」


 「一緒にするな。21と29じゃ差は大きい」


 えへんと刹那は胸を張った。別に自慢する事ではないだろうに。ライルはそう思いながら「初恋かぁ・・・」と呟いた。


 「あー・・・・綺麗なお姉さん方に相手してもらった事はあったけど・・・」


 「最低だな」


 「ひど!」


 「散々遊びつくして、いまだ初恋もしていない。これを最低と言わずになんと言う」


 「誰が初恋をしてないって?」


 悔しくて言い返すと、刹那は目を丸くした。数秒そのまま固まった後、先ほどの意趣返しといわんばかりにニヤリと笑って尋ねてきた。こちらの気持ちなど、知りもしないで。


 「・・・・で、叶ったのか? 相手は?」


 「・・・・・相手、は」


 ちらりと横目で刹那を見ながら。


 「がさつで、無鉄砲で、俺の気持ちなんてこれっぽっちも分かってなくて、かと思えばなんか勘違いしそうなこと言ってきて、いつも前しか見てなくて」


 しかもガンダムとかいうMSにどっぷりで、と心の中で付け加えて。


 「優しくて、美人で、しっかりしてて、胸は・・・・まぁ大きくて、髪も撫でたら気持ちよさそうで、目とかすげー綺麗な色してて」


 「もういい。聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなってくる」


 額に手を当てて「お前、それは惚気か」と吐き捨てるように呟いた刹那を見て、ライルもため息をついた。ここまで言っても、やっぱり彼女は気付かないのだ。


 「叶うといいな」


 「あー・・・うん、そうだな」


 本当に何一つ気付いていない刹那に、ライルは生返事を返す事しか出来なかった。





 純情ボーイ純情ガール