「「遊園地?」」


 全く同じタイミングで全く同じ言葉で聞き返してきたのはさすが双子と言うところか。表情までも同じような呆けた顔の二人に、刹那はこくり、と頷いた。


 刹那が言う遊園地とは、昔からこの町のはずれにあるもののことで、幼い頃三人でよく出かけたが、ここ最近は全く足を運ばなくなっていた。


 刹那が差し出したチラシには、その遊園地が今月末に取り壊されると書いてあった。そのため、今週は比較的安く入場できるのだとか。


 「前回は、三人で行けなかったから」


 前回とは、どこぞの変態ストーカーからもらったチケットで行ったウォーターパークのことである。一枚で三人まで入場可能のチケットだったため、いつものメンバーで出かけたのだ。


 珍しい刹那からのお誘いを、二人が断るわけもなく。


 返事代わりの笑顔に、刹那も顔をほころばせたのだった。


 考える事は皆同じなのか、長年慣れ親しんだ遊園地に別れを告げようと考えたのは刹那たちだけではないらしく、その日はそのそのの賑わいを見せていた。


 「ぜんぜん変わってないね。最初なに乗る?」


 「お、あれ乗ろうぜ。昔刹那が乗ろうとして身長足りなくて乗れなかったジェットコースター」


 「嫌な事思い出させてくれたな・・・。いいぞ、今はもう乗れるからな」


 懐かしさもあって、いつも以上にはしゃいだ三人は、当然のごとく昼を過ぎた頃には疲れ始めていた。そんな時だった。


「おい、あれ入ろうぜ」


 ハレルヤが指差した先にあるのは、おどろおどろしい外装をした廃病院・・・・を模したお化け屋敷だ。


 「俺一度入ってみたかったんだよなー。な、行こうぜ」


 「え、嫌だよ。あそこ、この遊園地で一番怖いって有名じゃないか!」


 顔を盛大に引きつらせて反対するアレルヤを、ハレルヤは華麗に無視して刹那の手を取る。


 「じゃーアレルヤは外で待ってりゃいいだろ。俺は刹那と行ってくるから」


 「!? そ、そんなのずるい!」


 いつの間に俺は行く事になったのだろうか、と心底不思議に思っている刹那を残し、アレルヤとハレルヤはぐだぐだと言い争い続けていた。





 結局。


 長時間人目も気にせず行われた争いはハレルヤの勝利となった。


 「おー、けっこう雰囲気あるじゃん」


 「あわわわわ・・・せ、刹那、どこぉ・・・」


 「落ち着けアレルヤ。俺はここにいる」


 暗く埃っぽい室内を歩くには、小さなライト一本では心もとない。入場する際に係員に渡されたのだが、今にも電池が切れそうで不安になる。


 「せ、刹那・・・手繋いでもいい?」


 「あ、ずりぃぞアレルヤ! お前、いい年した男がお化け屋敷くらいでビビってどーすんだ!」


 「怖い物は仕方ないだろ! 大体、ハレルヤが無理矢理・・・」


 兄弟喧嘩、再び。せめてアトラクションから出てからやって欲しかった。


 隣でぎゃーぎゃーと叫び二人を止めもせず、刹那はぼんやりとそれを傍観していた。ちなみに、両手はしかりと自分の量耳を塞いでいる。


 五分ばかりがたって、そろそろ本気で帰りたいと刹那が思い始めた頃、ふと、通路の奥で何かが見えた・・・・気がした。


 「・・・なんだ、あれは?」


 「大体いつもハレルヤは・・・・・・刹那?」


 ふらぁっと吸い込まれるように通路の奥へと行ってしまった刹那を、アレルヤとハレルヤは必死に追いかけた。だが、いつしか見失ってしまった。


 「ど、どしようハレルヤ。刹那が・・・・」


 「いや、さすがにあいつもお化け屋敷で迷子にはならないだろ・・・・」


 そう言うハレルヤだが、自信はなさそうだ。お化け屋敷で迷子・・・・・・


 刹那がライトを持って行ってしまったので、辺りはさらに薄暗い。喧嘩に夢中で忘れていたが、ここはお化け屋敷だ。


 いざ思い出してみると、本当はハレルヤだって怖い。あわよくば、怖がった刹那が抱きついてくるとか、そんな都合のいいシチュエーションを夢見て挑んだと言うのに。


 ふいに、どこからかガタッと物音が聞こえた。思わず飛び上がる二人。逃げたい。ものすごく逃げ出したい。


 しかも、気のせいだろうか・・・・・先ほどから何かが近づいてくるような物音が聞こえてくるのだ。しかも複数。


 「・・・・・アレルヤ、見てこいよ」


 「この状況でいいよって言う人はいないよ。ハレルヤこそ見てきなよ」


 「嫌だ」


 「僕だって嫌だよ」


 兄弟喧嘩、再び。たぶん彼らに学習能力はないのだろう。


 彼らが喧嘩している間に足音はどんどん大きくなってしまった。さすがに二人共喧嘩をやめて暗闇を凝視している。何があっても即座に逃げれるような体勢で。


 瞬間、二人の前方で何かが光った。


 「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 「・・・・・何をしているんだ、二人共?」


 「「へ?」」


 腰を抜かして絶叫した二人が見たのは、懐中電灯を持った刹那。


 「いなくなったと思ったら・・・・すいませーん、こっちにいましたー」


 どやどやと集まってくるのは、刹那と同じく懐中電灯を持った施設の係員達。


 「あーお嬢ちゃんの連れ、見つかったかい」


 「良かったなぁ」


 「駄目だよー君ら。こんなとこで迷子になっちゃ」


 座り込んだまま呆然とする二人に声をかけながら、彼らは通路の奥へと消えていった。外に出て行ったのだろう。呆れ顔をした刹那がどうした? と訊いてくるが、それより・・・・


 「え、刹那、迷子って・・・」


 「おい、なんか今俺ら世界一恥ずかしい状態になってね?」


 「だって、出口で待ってたのにお前たち来ないし。迷子になっていたら大変だと思って施設の人に言ったんだが・・・・俺は何か間違えたか?」


 心底不思議そうに首を傾げる刹那に二人は何も言えなかった。うん、間違ってはいないけど・・・・・いないんだけど。


 「いや、刹那は悪くないよ・・・・うん」


 「うわぁ・・・・俺ここから出たくねぇ」


 出た瞬間に浴びるであろう人々の視線を考えて、ハレルヤはがっくりと肩を落とした。アレルヤは慰めるようにその肩を叩いたが、彼も出たくなさそうだ。


 「ほら、二人とも行くぞ」


 差し出された手を取ると、ぎゅぅっと強く握られる。


 その体温をいとおしく感じて、三人は歩き始めた。