『お帰り』 ティエ刹
はやく帰ってきて
愛しい君に、言いたい言葉があるから
ティエリアは整備ロボットにヴァーチェを任せ、急ぎ足で自室へ向かっていた。
今回は珍しくヴァーチェのみの出陣で、一人で戦った分、疲れも溜まっている。
ティエリアは時刻を確認すると、苛立たしげに舌打ちをした。もう真夜中だ。たいていの人間ならば、眠っているだろう。無論、ティエリアが会いたい彼女も。
「ティエリア!!」
「刹那!?」
駆け寄ってきた少女に、ティエリアは驚いた。普段の彼女なら、もう寝ているはずなのだから。
「どうした? もう就寝時間だろう・・・」
「おかえり、ティエリア」
はにかみながら微笑んだ刹那に、ティエリアは見惚れた。
「ああ、やっと言えた」
「まさか、それを言うために起きていたのか?」
「ああ」
嬉しそうに答える刹那に、ティエリアは頬が赤くなっていくのが分かった。なんというか、もう。
この可愛い生き物はなんだ!?
赤くなっているだろう顔を見られないようにするため、ティエリアは刹那を抱きしめた。首筋に顔をうずめると、どこか甘い香りがする。
「・・・・・ただいま」
「おかえり」
『スキンシップ』 ハレ刹
刹那が思うに、度が過ぎたシキンシップはセクハラだ。
この男がそうであるように。
「・・・・・いい加減にしろ、ハレルヤ」
「あー? 何の事だ?」
背後から刹那の腹部に手を回し、首筋に顔をうずめている男はニヤニヤ笑いながらそう返した。
・・・・・一発その顔面を殴ったらスッキリするだろうか?
「このセクハラのことに決まっているだろう」
「こんなもん、ただのスキンシップだろー」
ニヤニヤ笑いながら腕に力を込める彼が憎くてたまらない。こいつ、絶対確信犯だ。
「程度を考えろ。これは絶対セクハラだ」
「俺だけじゃないだろ。あのオッサンスナイパーもこれぐらいする」
「ロックオンは殴ればやめる」
「じゃあ、なんで俺にはしない?」
「アンタを殴ったら、アレルヤまでダメージを受ける」
「アンタ達が別々だったら良かったなのに」と愚痴る少女の首筋に顔をうずめながら、ハレルヤは自分の境遇を少し感謝した。
一番長く彼女に触れられるのは、きっと自分だけ。
『序章』 アレルヤ(13歳)×刹那(16歳)
ねぇ、いつになったら君は気付いてくれるの?
ねぇ、いつになったら君は僕を見てくれるの?
僕はずっと、君だけを見ていたのに。
自室で真面目に勉強していたアレルヤは、はぁ〜とため息をついた。今アレルヤが解いている問題集は中学生用で、つい先日小学校を卒業したばかりのアレルヤには、少々手強い代物。
「やっぱ独学じゃ無理かな・・・・」
参考書と格闘しながらなんとか解いていってはいるものの、少し複雑な応用問題となるとお手上げ状態だ。友人に頼ろうも、卒業したとはいえ入学していないのに中学の勉強をしようなどという向上意識のある友人はいない。
ふと、この程度の問題なら難なく解けるであろう幼馴染の姿を思い浮かべる。彼女の力を借りれば、少しは楽になるかもしれない。だが・・・・
「刹那も忙しいだろうし・・・・・」
会いたい。けど、もし迷惑だったら・・・という思いが邪魔をして、なかなか行動に移せない。
そんな時、部屋の窓がこんこん、と叩かれた。反射的にそちらを見るとそこには・・・・
「せ、刹那!?」
お隣に住む、アレルヤと同じく今年の春から女子高校生となる刹那が窓の外から叩いていた。
実は、刹那とアレルヤの部屋は向き合って存在していて、昔から刹那はアレルヤに用があると、玄関など通らずに窓から侵入してくるのだ。
慌てて窓を開けると、刹那は慣れた手つきでアレルヤの部屋に入ってきた。
「刹那、なんで・・・・」
「アレルヤ、なんだか分からないがうんうん唸っていただろう? 俺でよければ力になるが?」
聞こえていたのか、と自分の奇行を恥じながらも、アレルヤは素直に問題集のことを話すと、刹那は快く応じてくれた。
「あぁ、この問題はxに代入して・・・・」
実に分かりやすく教えてくれる刹那。そのおかげで、つまづいていた問題を解く事が出来た。
「やった! ありがとう、刹那」
勢いよくふりかえると、思いのほか近くに刹那の顔があった。目が合うと、刹那も「よかったな」と微笑む。
「・・・・・」
「どうした、アレルヤ? 顔が赤い」
「っ! なんでもないよ・・・」
慌てて刹那から見えないように問題集と向き合った。
君にとって、僕はただの年下幼馴染。
いつになったら、『男』として見てくれますか?
『あの娘のお味』 ティエ刹
「座らないのか?」
コーヒー片手にくつろいでいたらしいティエリアに言われたものの、刹那は固まって動けなかった。
ティエリアの隣の席、その机の上に置かれているのは。
スポンジにこれでもかというくらい塗りたくられた生クリーム。てっぺんに飾られているのは甘酸っぱい香りを放つ真っ赤な苺。
ティエリアとショートケーキ。似合わないその組み合わせに、刹那はどういった行動をしたら良いのか本気で悩んだ。
とりあえず、自分が座れと言われた席にあるのだから食べても良いのだろう。ほとんどの女性がそうであるように、刹那もまた甘いものが好きなのだ。
生クリームが塗られた甘いスポンジを一口に頬張って、その甘さを心から堪能する。自然と刹那の頬をほころび、その珍しい光景に今まで無関心だったティエリアも視線を刹那に移す。
「そんなに美味いのか?」
「・・・・それなり」
ほとんどの食べ物の感想を「別に」で済ます彼女がそこまで言うのなら、そうとう気に入ったのだろう。ティエリアは分からない、というようにため息をついた。
「アンタは食べないのか?」
「僕は甘いものが好きではない」
「俺にしたらアンタの考えのほうが分からない」
そう言いながら、刹那は最後のお楽しみとしてとっておいた苺を口の中に放り込んだ。新鮮な果物の美味しさに、またしても刹那の頬が緩む。
不意に、その光景を眺めていたティエリアの指先が刹那の顎を捉えた。
突然の事に刹那が戸惑う前に、刹那の唇にティエリアのそれが重なった。
たっぷり十秒は口内を蹂躙され、刹那が顔を真っ赤にさせてから、ようやくティエリアは唇を離した。
「・・・・やはり、分からないな」
開口一番そう呟いたティリアの顔面を、刹那はあらん限りの力で殴った。
気になるあの娘はイチゴ味
『子守唄』 ロク刹
「なぁ、それ何の歌?」
ソファーに座って物思いにふけっていた刹那は、突然の問いにきょとんとした顔で応じる事しか出来なかった。しばらくしてから、自分が無意識のうちに歌を口ずさんでいたと知る。
「珍しいよな。刹那が歌うだなんて」
「別に・・・・」
気恥ずかしさもあって、どことなくぶっきらぼうになってしまった返答に、それでもロックオンは笑みを崩さないで、最初の問いの答えを待つ。
「故郷の歌だ。よく女たちが歌っていた」
「へぇ・・・」
「もう滅んだ国の歌だ。知っている人などいない」
ロックオンはつい先日知る事となった刹那の過去に苦い顔をしたが、すぐさま笑みを戻し、刹那の膝に頭を乗せた。
「な、それもう一回歌ってくれよ」
「え・・・でも」
「俺は聴きたいなぁ。刹那の歌」
ねだると、刹那は「仕方がないな」と呆れながらも歌詞を口にした。男では出ない、少女特有のアルトの声が酷く心地よい。
「ロックオン、寝るのならベットに行け」
「えーもうちょっとだけ」
愛しい少女のぬくもりを感じながら、ロックオンのまぶたは自然と閉じていたのだった。
恋人に贈る子守唄
最大の愛を感謝を込めて