純白は良い意味では純潔、悪い意味では死を連想するのは自分だけかと悩みながら、けれど目の前の真っ白な少女に視線を戻したリナリーは絶対に自分だけではないという確信を持った。


 だって、彼女はあまりにも純白で純潔で純粋で、そして死に満ちている。


 「具合、どう? 少しは顔色いいみたいだけど」


 「ええ、だいぶよくなりました。ありがとうございます、リナリー」


 そう笑う彼女の頬には大きなガーゼが貼られ、腕には点滴の針が刺さっている。目の前に座るリナリーとて、似たようなものだ。ただ、彼女はぎりぎりのところで入院を免れただけ。


 じっとアレンの顔を眺めていたリナリーは唐突に髪、と呟いた。


 「・・・はい?」


 「負けちゃったね、アレンくんに。昔は私のほうが長かったのに」


 触れるアレンの髪はまるで絹のようだ。処女雪に銀を溶かしこんだような色の髪を撫でながら、髪留めが欲しくなった。昔の自分のようなツインテールはできなくても、きっと彼女の髪で遊ぶのは楽しいだろう。


 「伸ばしてみない? きっと綺麗だよ」


 「遠慮しておきます。苦手なんです、そういう女の子みたいなの」


 「女の子のくせに」


 唇を尖らせると、アレンは困ったように苦笑した。彼女が男名であることや男装を常としている理由を承知済みだから、リナリーは結局いつだって仕方ないねですませるしかないのだ。


 「ねぇ、アレンくん」


 「なんですか?」


 その表情があまりにも普通の顔だったので、リナリーは殴るなりなんなりして彼女を泣き顔にさせてやりたいと思った。


 「あんなこと、言ってほしくないな」


 「あんなこと?」


 「自分を殺して、なんて」


 感情を殺して囁いた台詞に、アレンは数秒考え込んだ後思い出したようにああ、あれと呟いた。14番目の記憶がもし仲間を襲ったら、との質問に対しての己の答えを忘れていたのだろうか。


 「だって本心ですから」


 「それでも嫌なの」


 「リナリーは優しいですね」


 優しい、なんて。


 そんな言葉を、彼女の口から聞きたくはなかった。


 自分はただ我が侭なだけだ。世界が終わるのは嫌だ。自分の大切な人が死ぬのは嫌だ。あれも嫌だ、これも嫌だとわめく子供のように。


 本当に優しいのが誰なのか、彼女はきっと分かっていない。


 (他人のために、自分を殺すなんて)


 自己犠牲と優しさが直結するわけではないけれど。


 「リナリー、べつにぼくは他人のために死のうとは思っていませんよ」


 「え?」


 まるで心の中を読んだかのような言葉に、リナリーは動きを止めた。


 「ぼくが死ぬのは、ぼくのためです。誰かが死ぬのを見たくない、ぼくのために死ぬんです」


 自己犠牲、ではなかった。というか、なんとも自己中心的な考えだ。


 唖然とするリナリーの前、アレンは揺るぐことなく微笑を浮かべていた。


 「自己犠牲なんて、くそくらえ、です」





 の自己犠牲


 (きっとその精神は、鋼のように折れることを知らない) (だから私は、彼女を止める術が分からない)