暇だ。
とてつもなく暇だ。
欠伸一つ。
することも無くただ突っ立って、俺は空を見上げる。
雲の多い空だ。
なんかやる気がしねぇ………
人革連の領域内にある主要都市の一つ。
ショッピングモールが立ち並ぶ一角、いかにもお門違いの場所に俺はコートを着て立っていた。
寒い………
アレルヤが、あいつを送り出して10分。
そろそろ来ても良いんじゃねぇのか………?
そのとき、小走りでこちらに向かう待ち人の姿が見えた。
やっと来たか………
あまりに人が多いため、居場所が分かるように手を上げてやる。
3歩分残したところで、彼女は声を発した。
「待たせた、アレル、ヤ………?」
彼女のほんの僅かに動いた表情に、俺は口角を上げる。
一発か、面白ぇ。
アレルヤじゃ決して浮かべないような笑みを浮かべて、俺は言った。
「よう、久々だなぁ刹那。」
「ハレ、ルヤ………」
足を止めた彼女―――刹那の動きに合わせるように、彼女の長く見せた髪の毛が、そして彼女のスカートがひらひらと揺れる。
滅多にないそんな格好で、呆然とこちらを見ている刹那の腕を取って、俺は颯爽と歩き出した。
あぁ、やっぱり刹那は面白ぇ。
高揚する気分は、隠さないまま。
−でも本当は、−
そもそもどうして刹那がこんなふりふりひらひらの服装を着て、アレルヤなんぞと外を歩くことになったのか。
答えは簡単だ。
―――任務だから。
スメラギ・李・ノリエガとヴェーダからアレルヤに任務が来たのは昨日のことだった。
『人革連内で不審な動きが見られるの。』
話を聞くに、どうやらテロを企む組織らしい。
エージェントが情報を集めたものの、詳しいことは分からない。
だが、規模はかなりのものであるのは確か。
『曖昧な情報でごめんなさい。』
今日、そいつらの幹部が、なんとも馬鹿げたことにパーティーに出席するという。
『一般人も多数参加するの。貴方と刹那には、潜入して情報を探ってもらいます。』
万が一の為に、懐に色々詰め合わせて。
超兵であるアレルヤと、接近戦の得意な刹那に、この任務は下ったのだ。
そうそして今、パーティーに出席するため刹那の服装を買いに来ていたところだったのだ。
歩きながらどういう状況か察したのだろう。
刹那は、ぽつりと呟いた。
「アレルヤ、は?」
「あん?アレルヤなら寝てるぜ。」
いや、正確に言えば寝かせた、の間違いか。
笑みを浮かべれば、おのずから分かったのか刹那は難しい顔をした。
「おいおい、んな顔してっと変に思われるぜ?」
「ここは外だ、まだ問題はない。………何故、出てきた?」
「出てきちゃいけないなんて規則はねぇぜ。……あったところで気にしないがな。」
「だが、」
「アレルヤに出来ることを俺に出来ないとでも?」
「そうではない。だが、戦闘にするつもりはないぞ。」
「分かってるって!アレルヤ通して状況は把握済みだっつーの!大人しく情報聞き出しますよー」
「………何故?」
刹那がちらりとこちらに目をやる。
納得してねぇ、引かねぇ眼だ。
………ここに出てきた理由ねぇ………
「暇潰しだよ。ずっと寝てたんだから、良いだろ?少しぐらい………」
そうてきとうに答えたら、刹那は押し黙って下を向いた。
さっき表情のことは指摘したから、無表情のまま。
それもある意味違うんだがな………
まぁ、良いか。
「任務はちゃんとやってやるって。」
「………分かっている。」
その答えに、俺は笑った。
分かってる、か。
俺の笑みをどう取ったのか、刹那は続ける。
「お前は、任されたことはしっかりやるだろう。」
「おーよく見てるねぇ。」
「別に。」
クイッと掴んでいた腕を引かれた。
目の前には、この界隈で一番でかい高層ビル――――目的地だ。
「あーぁ、動きづらいったらありゃしねぇ。」
コートの下は、堅苦しい服だ。
つーかいざっていうときに動けなきゃ意味無くねぇか?
「我慢しろ、任務だ。」
「はっ、刹那、似合ってるぜ。」
凄い目で睨んでくる彼女の腕を取って、警備員に笑顔で挨拶。
刹那も瞬時に合わせるから、うわ、こいつの演技はんぱねぇよ。
「行くぞ。」
「りょーかい。」
腕を組んで、小声で呟いて。
こんな楽しいこと、アレルヤに譲ってやるわけあるかよ。
俺らは、光に降り立った。
Lemon Candyの神崎沙塑羅様より十万打記念リクスト作品として頂きました。
ハレルヤがとてもかっこいいです。分かり合ってる二人にとても萌えました。
神崎沙塑羅様、本当にありがとうございました。