嘘つき、と。


 数分間黙りこくっていた刹那がようやく唇を開き、それでもなお数分間悩んだ挙句に発したのは、そんな言葉だった。


 四月にもなったというのに、吹く風はいまだ冷たい。叩きつけるようにカーネーションの花束を置き、刹那はニール・ディランディと刻まれた墓石を見つめた。


 「四年前の、今日」


 自分の十七歳の誕生日に。


 「アンタはこれを俺にくれた」


 女らしさなんて欠片もない自分には似合わない、桃色のカーネーションの花束を。


 「その時に言っていたよな」


 端整な顔を、子供のようにほころばせて。


 「来年も、こうして祝ってくれると」


 約束だ、と小指を組み合わせて。


 恥ずかしくて憎まれ口をたたいたけれど、本当は嬉しかった。彼が傍にいてくれることが嬉しかった。ずっと一緒にいると言ってくれたことが嬉しかった。


 なのに。


 「アンタは嘘つきだ。祝ってくれると約束しただろう? 一緒にいてくれると言っただろう?」


 ぽとり、とこぼれた雫が墓石をぬらした。墓石にしみ込んで、そのまま彼に届けばいいと思う。自分が泣いている原因が、誰にあるかを知って欲しい。


 「なぜ、アンタはいないんだ・・・・」


 震える肩を抱いてくれた人はいない。こぼれる涙をすくってくれた人はいない。優しく頭を撫でてくれた人はいない。


 彼はもう、どこにもいない。


 「この、嘘つきが」


 吐き捨てるように囁く、その声はかすれていた。


 刹那は涙を拭い、毅然とした表情で墓石を睨んだ。さよならも言わずに、その場から立ち去ろうとした時。


 吹き抜ける突風。桃色に染まる視界。思わず目を閉じた刹那の頬を撫でる、懐かしいその感触は。


 「ニー・・・ル?」


 刹那、と呼ぶ彼の声が聞こえた気がした。


 突風で飛ばされたカーネーションが辺りに散らばっていた。辺りには誰もいない。だけど、きっと。


 彼はここにいたのだ。


 「・・・馬鹿ニール」


 小さく笑って、刹那は踵を返した。さよならは言わない。言う必要がない。


 彼はいつだって、傍にいてくれているのだろうから。