自分の部屋でコンピューター・ゲームに勤しんでいたニールは、突如聞こえてきた大声に飛び上がらんばかりに驚いた。なぜなら、いまにも泣きそうな声は自分の幼馴染のもの、悪態を連ねている声は自分の双子の弟のものだからだ。
「ライルのやろー、またやりやがったな・・・・」
大急ぎでゲームの電源を切り(せっかくラスボスまでいったのに!)隣の空き地へと駆け込んだニールが見たものは。
「小学生にもなってまだこんなので遊んでんかのよ。刹那はガキだな」
「エクシアにさわるな! 返せ返せ返せ! ばかライルっ!」
「お前のほうが馬鹿だろ。俺もう中学生だし」
「このあいだのテスト、ライルの方が悪かったってニールが言ってた! ライルはばかだ!」
「うるせーちび刹那」
「おれはちびじゃない! ばかライルゥゥゥゥゥゥゥ!」
「お。、おい、こんなことで泣くなよ・・・」
お気に入りのおもちゃを取り上げられてぼろぼろと涙を流す年下の幼馴染。
泣かせた事に罪悪感を感じておろおろしだす弟。
ニールはため息を吐くと、うろたえている弟の手からおもちゃを奪い刹那に渡した。最初はきょとん、とした刹那だがお気に入りのおもちゃをその手に握り締めると、もう奪われないようにぎゅっと抱きしめた。
「で、俺言ったよな。もう刹那を泣かせんなって」
居心地悪そうにそっぽを向いているライルの頭を叩きながらニールは低い声で確認した。この二人が喧嘩をするのは今回だけではない。負けず嫌いな刹那にライルが一方的に絡み、そしていつも刹那が泣く。その喧嘩の後始末をする自分の身にもなってほしい。
「刹那が勝手に泣いたんだって」
「おれは泣いてなんかない!」
「どーみたって泣いてんだろ。泣き虫」
「うるさいうるさいうるさい! ライルなんかきらいだ! どっか行っちゃえ!」
指摘されて羞恥心がこみ上げてきたのか、刹那は真っ赤になって叫んだ。ニールはライルが瞬時に不機嫌になるのが分かった。
「そーかよ。だったらもう近づかねぇよ、泣き虫刹那!」
「ライル」
踵を返して立ち去ろうとする弟の背中に向かってニールは叫んだ。我ながらお人よしだとは思うが、こうでもしないとこの弟は気付かない。
「素直にならねぇと、誰かに取られちまうぜ?」
「・・・・・」
何か言いたそうな、だが押し黙ったまま、ライルは小走りで駆けて行った。おそらくは家に戻ったのだろう。
ニールは二回目のため息を吐きながら、未だに涙をこぼす刹那の前にしゃがみこんで、持っていたハンカチでその顔をぬぐった。
「大丈夫か、刹那」
「だいじょうぶだ。おれにはエクシアがいるから」
子供向けのロボットアニメのキャラクラーのおもちゃを抱きしめながら刹那はそう言った。刹那の両目は真っ赤に腫れていたが、もう泣いてはいなかった。
「エクシア、だっけ? それ」
「そうだ。ガンダムの中でいちばんかっこいい。ニール、知っているのか」
「ああ、ライルがいつも観ているからな」
刹那は信じられない、いった顔をした。その表情が面白くて、ニールはくつくつと笑った。
「あのな、刹那。ライルがこの前の定期テストで点数が悪かったの、勉強しないでアニメ観てたからなんだぜ。日曜日の五時になると決まってテレビの前に正座してさ」
「え、でもライルはガンダムなんかガキのアニメだって」
「あー・・好きなものは意地でも隠し通すから、アイツ。確か一番のお気に入りはケルディムつったっけ? アイツの部屋行ってみろよ。刹那が持ってるのと同じやつがたくさん飾ってあるから」
その言葉に刹那がぱぁと顔を輝かせた。しかし、次の瞬間その笑顔がくもった
「おれ、ライルにきらいだって・・・」
「じゃ、仲直りしないとな。アイツはきっと自分の部屋にいるだろうから」
行って来い、とその小さな背中を軽く押す。刹那は不安げにこちらを見た後、ぱたぱたと駆けて行った。
たぶん、自分はこれからもうこんな後始末をしなくてすむのだなぁ、とニールは安堵の息を吐いた。
それはなんて不器用な
しろくま様より、『いじめっ子ライルに振り回される刹那と叱りつけるニール』でした。
素敵なネタありがとうございます! ちゃんとライ刹になったのか不安です・・・