届かないこの想い。


 君に伝える気はないけれど。


 だけど手に入れたい。


 僕だけを想ってほしい。


 そう思うのは、叶わぬ願い。











 貴方だけを想う











 窓越しに見える宇宙を見ながら、誰もいない食堂でため息を付きながらコーヒーを飲んでいた。


 ため息を出した理由は簡単。


 日に日に激しさを増していく武力介入のせいだ。


 世界を変えるためには仕方がないと思うが、そう簡単には割り切れない。


 自分がガンダムを駆使すればするほど多くの人が犠牲になっていると知っていたから。


 だからと言って簡単にはやめられない。


 犠牲が出ない戦いなどありはしないから。


 「難しいよね、ハレルヤ。」


 声に出して言ってみるが、返ってくる言葉はない。


 本当は返ってこないとわかっていた。


 けれど声に出さずにはいられなかったのだ。


 延々と終わらない考えに無意識にため息がでる。


 「……アレルヤ。」


 突然聞こえた声。


 聞いたことがあるそれにゆっくりと顔を動かす。


 「刹那…。」


 そこにいたのはマイスターの中で一番年下で、けれど誰よりもガンダムという機体を大切にしている刹那がいた。


 いつもと変わらない無表情のまま、刹那は僕のところまで近づいてくる。


 「こんな時間に刹那が出歩いてるなんて珍しいね。どうかしたの?」


 「…寝付けなくて散歩をしていた。」


 「じゃあホットミルクでも作ってあげようか?」


 言いながら、僕は席を立つ。


 それに刹那は遠慮をしようとするが何とか笑顔で押し切る。


 刹那とこんな時間にこんなところで会えるなんて思っていなかったから、少しでも長くいたいと思っていた。


 僕よりも3つ年下で無愛想な子ども。


 あんまり人と関わることが好きではないようでいつもどこか一線を引いている。


 そんな刹那に僕はいつの間にか恋をしていたらしい。


 僕自身でも気付かないくらい密かに思いを寄せていた。


 だからこそ、今この時を一緒にいたかった。


 僕に押し切られると、刹那は渋々僕の座っていた席の向かい側に座った。


 そんな刹那を視界におさめながら手早くホットミルクを作る。


 特に会話が出てくるわけでもないが、息苦しさは感じない。


 少しするとできあがったホットミルクをマグカップに入れる。


 そしてそれを片手に持って刹那がいる席に戻る。


 「はい、どうぞ。」


 「…すまない。」


 「いいよ、別に。僕が勝手にやったことだし。」


 優しく笑うと刹那は渡されたホットミルクに口を付ける。


 ちょうどよい甘さと暖かさだったのか、少しばかり表情が和らいだように見えた。


 「おいしい。」


 呟かれた言葉。


 滅多に感情を表さない刹那が呟いた言葉に僕は自然と頬を緩める。


 いつも言葉がたりなかったりするけれど刹那は優しくていい子だから。


 これも刹那なりの感謝の仕方だってわかってる。


 本当に、いい子だと思う。


 けれど刹那を想ってはダメなんだ。


 僕が僕の思いに気付いた時、刹那にはもう恋人と呼べる存在がいた。


 マイスターの中で一番年上であるロックオン・ストラトス。


 僕は彼を慕っていたし、ものすごく頼りにしている。


 ロックオンが刹那を大切にしていることは知っていた。


 仲間としても、愛しい人としても。


 刹那もロックオンの想いに応えようと、不慣れな感情と向き合っていることもわかっていた。


 近くにいるから。


 刹那をずっと見ていたからわかる。


 だからこそ二人の関係を壊す原因になりそうな自分の想いに蓋をした。


 刹那にもロックオンにも何も告げないで。


 だってどちらも大切な仲間だから、それが一番いいと思ったんだ。


 「…何か、悩んでいたのか?」


 珍しく探るように問われた言葉。


 そんな風に聞くことを滅多にしない刹那に少し驚く。


 けれどすぐに人当たりの言い笑みを浮かべる。


 「大したことじゃないよ。」


 「…そうか。」


 刹那に余計な心配をかけたくなかったから。


 だからつい、そう言ってしまった。


 刹那も僕の言葉を聞くと、深くは踏み込まずにすぐに引き下がる。


 人との距離に敏感な刹那だからこそ、踏み込んでほしくない領域があると理解している。


 だけどもう少しくらい気にしてもらいたい。


 気にされても困るのだから矛盾しているとわかっているけれど。


 「…アレルヤは、いつも優しいな。」


 「そうかな?」


 「だからアレルヤが大丈夫と言うなら多分、大丈夫なんだろう。俺と違ってしっかりしているから。でも、もし何かあるならあまり抱え込まない方がいい。俺は話を聞くことしかできないが、それでも少しは違うだろう。」


 いつもと同じように無表情だけど。


 話してくれることは僕を想ってのこと。


 驚きと喜びが同時に僕の中でわき上がる。


 それと同時に心の底で蓋をした想いが溢れてきそうだった。


 「ロックオンよりは頼りにならないかもしれないが、」


 「そんなことないよ。僕は、刹那がそう思ってくれるだけですごく嬉しいよ。」


 刹那の言葉を途切れさせ、伝える言葉は真実で。


 わかってる。


 刹那が仲間として心配してくれていることも、その優しさの根元に誰がいるのかも。


 それでも、想いは溢れていく。


 「そんなに、嬉しいか?」


 「嬉しいよ。だって、刹那のことが好きだから。」


 つい言ってしまった言葉。


 言われた刹那はマグカップを片手に驚いて止まっている。


 こちらを見る目には驚きと疑問がありありと浮かんでいる。


 その様子に、僕の中で何かの諦めがついてしまう。


 わかっていたことだけど、ここまで驚かれると逆に罪悪感が襲ってくる。


 やっぱり、刹那の中にはまだ踏み込めないみたいだ。


 「あ、変な意味じゃないよ?仲間としてってこと。」


 些細な嘘を一つだけ。


 いつもの笑顔を浮かべながら言えば、刹那の緊張が心なしかとけた気がする。


 「だって刹那はロックオンのことが大好きだもんね。」


 「…アレルヤ。」


 じろっと睨んでくる刹那はいつもの刹那。


 それにたじろぐ振りをして、優しく微笑む。


 刹那にこの想いを伝える気はない。


 伝えたからと言って手に入るわけでもないから。


 でも、これだけは許して。


 やっぱり蓋をしても溢れてきてしまうから、貴方を想うことだけは許してほしい。


 「ねぇ、刹那。」


 「何だ。」


 言われた言葉がまだ気に食わないのか、拗ねたような声。


 それさえも、愛しいと思える。


 「さっき僕のことを優しいって言ってくれたけど、刹那も優しいよ。」


 「……そうか?」


 「うん。」


 その優しさは時に残酷だけど。


 それでも、その優しさに救われているのもまた事実なんだ。


 「ありがとう、刹那。」


 「何故、アレルヤが礼を言うんだ?」


 「何となく、かな。」


 そうはぐらかせば、刹那は意味がわからないと言うような顔をする。


 それでも僕らしいと思ったのか少しだけ柔らかい顔をする。


 「…そうか。」


 昔と違って優しく笑うようになった刹那。


 それはすべてロックオンが与えた愛情によってだと言うことはわかっている。


 だから僕が彼らの間に入ることなんて出来ない。


 でも、今はこれで幸せ。


 こうやって何気ないことを話せることが嬉しいんだ。


 そして君が幸せそうに笑っている時に傍にいられればいい。


 ただそれだけで、


 僕も幸せと感じれるから。








END

















の瞭様より、相互記念として書いてもらった小説です。


 ロク刹←アレって管理人が一番好きなCPかもしれません。片想い大好きです。


 想いを言わないけど刹那を想っているアレルヤにキュンキュンしました。せつない片想い・・・・!!! 大好きです!! めちゃくちゃ大好きです!!


 瞭様、本当にありがとうございました。