罪深い身だと、重々承知していた。


 人並みの幸福など、与えられる価値すらないと知っていた。


 多くを望みはしない。たったひとつだけで、いい。


 ひとつだけで、よいのだから。














 聞いて欲しい事があるんだ、とためらいながら口にしたその台詞に彼が了承してくれたのを確認すると、刹那はぽすん、とロックオンの胸の身体を預けた。頭の奥底に、彼が頷いてくれなければいいのに、と望む自分がいて、刹那はその思いを振り払うかのように頭をふった。


 「急に改まっちゃって、どうしたんだよ?」


 「言っておかないとだめだと、思ったんだ。俺の・・・・過去に、ついて」


 努めて冷静に。出来るだけ感情を出さないように。刹那は慎重に言葉を選んだ。


 「俺が初めて、人を殺した時の話を」


 「刹那」


 震える小さな手を、ロックオンの大きな手が包み込む。無理をするな、と耳元で囁かれたけれど、刹那は唇をかみ締めて、次の言葉を探した。


 「俺が初めて殺した人間は・・・・・俺の、両親だ」


 背後でロックオンが息を呑む音がやけにリアルで、刹那は身体の震えを隠す事が出来なかった。数秒間黙っていたロックオンは、おずおずと口を開いた。


 「・・・・それはあの男にだまされて、だろ」


 「それは言い訳にしかならない」


 どこか自嘲気味な響きを含んだその言葉に、ロックオンは否定の言葉を探すが、何も見つからない。見つけられない。大の男がうろたえる姿が少しおかしくて、刹那は不謹慎だと思いつつもつりあがる口元を押さえきれなかった。


 だまされていたから、洗脳されていたから、まだ幼かったから。そんな理由で古代から罪悪の罪とされる親殺しが許されるわけがない。許されていいわけがない。


 それではあまりにも、殺された両親が浮かばれない、と刹那は思った。


 「例えあの男に洗脳されていたからとはいえ、あの時引き金を引いたのは俺の意思だ。・・・・軽蔑、するか?」


 「するわけないだろ!」


 それは予想道理の答えだったけれど、刹那は胸が熱くなるのがわかった。強く抱きしめられた腕の体温が、彼が生きている証拠が、とても嬉しかった。


 「親殺しは大罪だ。だから俺は幸せになる権利なんてない」


 だけど、と刹那は怯えた瞳でロックオンを見つめた。


 「ひとつだけ、望んでもいいか?」


 何を、なんて言う必要はない。ロックオンの頬に添えた手を引かれ、彼に唇を奪われた。たぶんこれが、彼なりの了承の印なのだろう。ぬるり、と口内に侵入してくる熱い塊に思考を絡め取られ、そのまま床へと押し倒された。いつもだったら文句のひとつくらい叫ぶところだが、今日はなし。


 欲しいものが、手に入ったのだから。














 多くを望むつもりはなかった。たったひとつだけでよかった。他には何もいらなかった。


 なのに。


 「・・・うそ、だ」


 周囲に漂う破片は、愛する男の機体のもの。


 遠くからでも見えた爆発は、愛する男の命の光。


 「ロックオン!」


 たったひとつだけで、よかったのに。


 それすらも許されないというのなら、いったい何を望めば良かったのだろうか。





 


 (愛する事さえ、罪だというのか)











 お題は夜風にまたがるニルバーナさんよりお借りしました。