白磁と称される肌に一本の赤い線が刻まれた。そこから溢れた鮮血は腕を伝い、無地の床へと模様を描いていく。


 「・・・・・悪趣味、だな」


 ぽつりと呟かれたそれは別に彼女へむけたものではない。それでも律儀に反応を返してくれる彼女を愛しいと思う。


 「ふふ、君から見たら理解できない行動でしょうね、神田」


 「ああ、理解できねぇししたくもねぇな、アレン」


 「酷いなぁ。そこまで言うだなんて。傷つきました」


 たった今紡いだ言葉とは正反対の、いたずらっ子のような笑みを浮かべたまま、アレンは己の腕へとナイフを当てた。


 「君はこんなことしなくても生きていけるんでしょうけど・・・・・ぼくはこうしないと生きていけない。生きている、という実感が得られない」


 ナイフを横に引くとまた新たに赤い線が刻まれる。溢れる血液を愛しげに見つめる。


 「ぼくは傷が好きです。だって傷ができると痛みを感じ血が流れます。神経を焼く痛みが、熱くこぼれる血が、ぼくが今生きているという証になる」


 うっとりと目を伏せ、「だからぼく、傷つくのが大好きなんです。これなしじゃ生きてけません」と歌うような口調で熱く語るアレンに、神田は短く「そうか」と返した。その答えが意外だったのか、アレンは目を見開いて神田を見つめた。


 「・・・・なんだよ」


 「神田はリナリーみたいにやめてって言わないんですね」


 「言って欲しいのか?」


 「いいえ。だけど少し拍子抜けしました。これを知ってるひとは皆、ぼくにやめろって言うんですから。そんなの、ぼくの勝手なのに」


 「言わねぇーよ。そんなの、お前の勝手だろう」


 「ですよねー。皆わかってないなぁ。ラビなんか、傷つけるのだったら別のものにすればいい、なんてクッションとか送ってきたんですよ。殴る用にって。そんなの傷付けたって、ぼくが生きているという証にはならないのに」


 「バカ兎の考えそうな事だな。どうしたんだよ、そのクッション」


 「部屋にありますよー。意外と抱き心地はいいんで、お昼寝用に使ってます。あんなのを傷付けるだなんてもったいない!」


 本気で憤っているようなアレンを神田はくつくつと笑った。そんな神田をみて、アレンもふわりと微笑む。


 「ねぇ、神田。だからぼくは神田の事好きですよ」


 「なにが『だから』なんだよ」


 「人に干渉してこないところです」


 血に汚れていない、けれど血に染まったように紅い左手で、アレンは神田の頬を撫でた。


 「君がぼくに無関心でいる間は、ぼくは君を好きでいられる。ですから」


 「ぼくのこと、好きにならないでくださいね」と笑顔で言うアレンに神田はニヤリと笑って「ああ」と答えた。





 そうしてぼくらはをする




 (愛してます、愛してます! ぼくを好きじゃない君を愛しています!)