あふ、と小さな欠伸を零して刹那は読んでいた本を閉じた。


 「刹那、おいで」


 ソファに座るニールが両手を少し広げて、床に置いたクッションの上で背伸びをする刹那を呼ぶ。が、刹那はぺたんとクッションに座り込んだまま、両手をニールの方へと盛大に伸ばした。


 「抱っこ」


 まるで幼子のように単語と行動で己の欲求を伝える少女に、ニールは深く微笑んだ。


 彼女は、時折こうして甘えてくる。逆に言えば、時々しかこうしたわがままを言わない。もっともっと刹那を甘やかしたくて仕方ないニールにとって、彼女の方から甘えてくる貴重な時間はひどく歓喜を覚える時と言える。


 「了解、お姫様」


 言うなりソファから降りたニールは、刹那を、呼称した通りの抱き方、つまりお姫様抱っこで抱き上げた。刹那の伸ばした腕はそのままニールの首へと回される。


 「眠い?」


 「いや…ただくっついてたいだけだ」


 淡々とした口調でニールを蕩かすことを言ってのける刹那は、ニールがソファに再度腰を落とした後も彼の抱かれたまま彼の胸元に頬を擦り寄せた。


 「…かわいいなあ、刹那」


 身体の力を抜きその柔らかで華奢な身を預ける刹那の腰と膝裏を抱くニールは、目を細めて腕の中の少女の重みに溺れる。














 「ニール…お前に遠慮ってもんはないのかよ」


 「刹那が望んだんだ。ライルに遠慮なんかしてられるかって」


 約30分後、今日の買い物当番だったライルが帰宅し、彼を迎えたのは、ソファの上でニールが刹那を姫抱きにして寛ぐ様だった。羨ましい状況に内心舌打ちしたい気分だったライルだが、そんな彼のやさぐれた気分を一蹴させる一言が、恋しい少女から掛けられる。


 「ライル、おかえり」


 「ただいま、刹那。かわいい格好で俺を労ってくれて嬉しいよ」


 「…かわいい…、?」


 「「かわいい」」


 首を傾げる刹那に、元から彼女を抱いてご機嫌なニールは言うまでもなく、ライルまでも口の端を上げて少女を愛でる。


 ちなみに『かわいい』と口を揃えて称された刹那の格好は、サーモンピンクのポンポン付きニットパーカに、オフホワイトのニット素材のホットパンツといういわゆるルームウェアである。パーカが少し大きめなあたり、この服を彼女に買い与えた男(ちなみにニールである)の意図が見え隠れしている。


 「上半身の隠れ具合と足の見せ方のバランスが絶妙…」


 「だろ?」


 途端に、男二人の纏う空気が変わり、刹那に嫌な予感を抱かせる。


 「おい…俺はゆっくりしたいんだからな」


 警戒して釘を刺す刹那に、ライルは楽しそうに笑い掛けた。


 「でもさ、ニールにだけってのはフェアじゃないだろ?」


 そう言うと、ライルは刹那の足側へと周り、丁度一人分くらい空いているソファの端に座る。ギシ、と微かに音を立てるソファに、刹那は小さく溜め息をついた。


 「……最後まではしないからな」


 「了解、お姫様」


 先程のニールと同じ言葉で刹那の意思を受け取ったライルは、上半身を倒してむき出しの足の甲へと唇を落とした。


 「っ……!」


 小さく震える刹那を見てくすりと笑ったニールは、抱えていた膝裏から手を離し、少女の足をひとまずライルに委ねる。そして空いた左手で刹那の頬を撫でた。


 「せつな、俺も足撫でていい?」


 「え?…あっ!」


 問い掛けたくせに刹那の返事を待つことなく、少女の頬から離れたニールの手が再び彼女の膝に触れる。


 ライルは刹那の脛とふくらはぎを唇と舌で愛で始め、刹那はゆったりと進む二人の愛撫に必死に耐える。


 「んっ…あし、くすぐった…」


 「刹那は敏感だからな」


 「いい子だから我慢、な」


 訴えた言葉は現状打破できなかったばかりか、現状を悪化させる。


 「あっ、ん!」


 挙句、高い嬌声を上げる羽目になった刹那の左太腿にはニールのしなやかな手が絡み、右太腿はライルの唇が跡を残すように吸った。


 「んー、すべすべふわふわ!刹那、もっと触って撫でてもいい?」


 「俺も。刹那、もっと舐めて吸って跡付けてもいい?」


 もう止めろと告げようとした刹那の声を封じるように唇がニールの唇に塞がれる。それによって、先程よりさらに太腿の内側へ落とされたライルのキスのせいで生まれた新たな嬌声も、ニールの唇に飲み込まれ、くぐもった声にしかならなかった。














アンフェアな愛撫














 


 足への愛撫と繰り返されるキスにくったりと力を失った刹那の髪を撫でながら、ライルはニールに言った。


 「今度は俺が刹那抱っこしとくから、お前は夕飯の準備な」


 「……えー……」


 「えー、じゃない。俺が買い物行ってる間お前が刹那抱っこしてたんだからおあいこだろ」


 「……せつなー、俺がいなくて寂しいからって泣くんじゃないぞー」


 「…泣くか。それより腹減った」


 刹那の一言により、ニールは落胆しながらキッチンへ向かい、ライルは笑いながら愛しい少女を自分の膝に乗せた。























miniature dollyの宮柴千里様より十万打リクエスト作品として頂きました。


 我が侭なリクエストに応えてくださってありがとうございます! 刹那めちゃくちゃ可愛いです! ライニルが羨ましすぎる。ライニルになりたい!


 宮柴千里様、本当にありがとうございました