隣に座ってだべっている男との間柄を何と称すればいいのか、幸村にはよくわからない。友人と、いえばそれも当てはまるのだろうが、知り合ったのはわずか一カ月前で、そもそも幸村が高校生であるのに対してこの男は大学生である。同じ高校に通っていたわけでもなく、共通点などまるでない。出身地さえ、違うのだ。
なのになぜか、こうしてふたりの予定が上手く合わさった日などに外出などしている。
理由など、わかりたくない。
「伊達さんって変な人ですね」
ずるずると缶コーヒーをすすっていた政宗が盛大にせき込んだ。ぐぇごっふぉうぶおとか、難しい発音でせき込んでいるのを見ると、思わずその丸まった背中をさすってやりたくなる。けれどなんだか下手に触ると余計悪化しそうな気もして、どうしようもなくなった幸村はおろおろしながら黙ってその様子を眺めていた。
「なんか飲みます?」
いらない、と首を横に振るその動きだけで断られた。確かに、器官に異物が入った状態では、水を飲むことなど容易ではないだろう。何度か盛大にせき込んだ後、しょっぱいものと苦いものを同時に喉に押し込まれたような、なんとも形容しがたい表情で幸村を見た。
「お前・・・・・・遊びに連れてきてもらってる分際で、そんなこと言うたあ、良い度胸じゃねえか」
「俺の記憶では無理矢理さらわれたような気がするんですけど・・・・・・・俺なんかを誘う時点で、伊達さんは変な人ですよ」
だって、と幸村は辺りを見回す。橙や紅のもみじに目を奪われる、地元から少し遠出した山腹の広場には、天気がいいこともあいまって、数多くの家族連れや恋人たちが思い思いに過ごしている。そんな場所で、男二人が肩並べて飲み物をすする光景は、はっきり言って浮いていた。
政宗の唐突な訪問には慣れているつもりだったが、ひょいと人さらいのように車に引っ張り込まれて他県の山まで連れてこられるとは、誰が想像できようか。日帰りできる距離だから良かったものの、遅くなる、と電話越しに伝えたら保護者代わりの従兄に苦笑された。
「俺でなくても良かったでしょう。ていうかもみじなんて、伊達さんジジ臭いですね」
「ジジ臭い言うんじゃねえよ」
びし、と額に政宗の指が当たる。台詞こそ拗ねたものであったが、その響きも顔も、どこにも責める雰囲気は感じられず、むしろどこか楽しげにするのだから、幸村はやはり変な人という印象を強くするのだ。
「幸村、もみじは何色だ?」
「何色って・・・・赤、ですけど」
幸村が困惑しながらも答えると、政宗はだからだ、と笑った。
「紅いものを見るのなら、お前と一緒がいい」
ああ、やはり、幸村にはなにもわからない。
踏みしめる土は灰と泥が入り混じってこんなにも黒いのに、天を仰ぐと眩暈がするほどに空は青く、澄んでいる。その向こう、山を覆い尽くしているのは、自分と同じ鮮烈な色。
『生まれ変わったら、また、お前とこの景色を見てえもんだな』
傍らに立つのは、一目で上等だと知れる着物を着こなした、眼帯の男。
『なあ、死んでも俺は、お前のことを忘れねえ。きっとまた会いに行くぜ』
そう言って笑う男へと、いいようのない感情が胸にたまる。血だまりのようにどす黒く、鉛のように重い、名前の知らない感情が。
『××殿』
あなたのことなど、覚えていたくない。